60歳以降の就業に向けて、企業とシニア層の従業員が抱える課題とは

【コラム】60歳以降の就業に向けて、企業とシニア層の従業員が抱える課題とは

2022年6月29日

2025年、日本は現在の高齢社会から超高齢社会へと突入する事実をご存知でしょうか? 

第一次ベビーブームで誕生した800万人もの「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となるのが、2025年。それにより、医療や福祉など社会にさまざまな影響を及ぼすことから「2025年問題」と言われています。

2021年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行によって、70歳までの就業確保が努力義務化されたように、働き続けられる年齢が伸びたことはシニア層にとって朗報とも言えますが、これまで雇用することのなかった年齢の人たちを抱えることになる企業には多くの課題が山積しています。一方で、課題は企業側だけではなく、雇用されている従業員側にも多々あるのです。

そこで今回は、定年制延長に伴うミドルシニア層の活用に関する問題について、総合人材サービスPERSOL(パーソル)グループのシンクタンクとして企業の人事課題に取り組んでいる、株式会社パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部 ヒューマンアセットコンサルティング部の土方浩之部長にお話を伺いました。

「モチベーションの低さ」がシニア層のセカンドキャリアを阻害する

近年、大手企業が早期退職・希望退職を募るケースが増えています。これは定年延長に逆行する動きにも感じられますが、その背景には従業員の年齢構成比の偏りが要因の一つとして考えられるようです。

「いま、企業の人件費のボリュームゾーンになっているのが、1988年から1992年に入社した、いわゆるバブル世代です。それにより日本企業の84%が、高齢者偏重組織となっている現実があります。さらには、上場企業の約70%が60歳定年制を採用しているわけですが、65歳継続雇用制度や70歳までの就業機会確保などにより、企業の高齢者偏重は今後さらに進展して行くものと予想されています。一方、シニア層の従業員にとっても、ここが大きな転機になるのです。その背景にあるのは定年再雇用後の賃金です。弊社が実施した『定年後再雇用による年収・職務変化』の調査によると、定年前の賃金に比べ、平均44.3%低下しているうえに『50%より下がった』と回答した人が27.6%もいました。しかも、仕事内容は定年前とほぼ変わらないにもかかわらずです。そこで、高い専門性を有していたり、働く意欲を持たれている方々が、社外に転身の選択肢を求める動きは活性化しています。ただ、大企業から大企業へという転職事例は少なく、中堅企業が受け皿となり積極的に採用するケースが増えていますね。この辺の求人と求職のマッチングは非常に活発化しています」

※パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の勤労意識に関する定量調査」より

ただし、雇用が活発化しているのは大企業の従業員でも一部の人材に限った話であり、企業が抱えるミドルシニアの課題とリンクする部分でもあるという。

「専門性がありモチベーションも高い人たちを躍進層と表現するのですが、躍進しているミドルシニア層は全体の20%と言われており、非躍進層が60%、不活性層が20%と言われています。なぜ、こんなことになってしまうのか。それは企業側の人事制度運用にも責任の一端があるんです。ある意味で現在の人事制度そのものが不活性なミドルシニアを創出する装置になっているとも言えます。例えば、『職能資格制度』というものがありますが、これは企業が、従業員の能力に対して賃金と処遇を設定するもの。結果、55歳ぐらいまで給料が上がり続け、役職定年を迎えたところで一旦、リタイア感が強くなるんですね。『今のままで満足』とか『この先、そんなに悪いようにはしないだろう』という会社に対する漠然とした期待を持ってしまう。そのような温床がモチベーションの向上を妨げてしまうわけです。一方、企業側でもミドルシニアに関して、現在から5年以内に相当深刻な問題になると考えているのが『社員のモチベーションの低さ』なのです。そのため、キャリア自立の醸成やマインドシフトを目的とした研修などに取り組む企業が急激に増加しています」

ブルーカラーのデジタルデバイド解消が、再就職への扉を開く!?

大手企業に所属する躍進層の方ならば、その経験とキャリアからヘッドハンティングを受けたり、スカウト系の転職サイトに登録して求職活動を行い、新天地で活躍するケースも考えられます。また、企業が早期退職制度や一般希望退職を募るケースでは、優遇措置として再就職支援サービスを提供することも多いのだとか。

「パーソルで言うなら、パーソルキャリアコンサルティングという会社が、社外転進を希望される方を再就職につなげるサービスを行っています。ある調査によると、この2年間で年70社を超える上場企業が早期希望退職募集を行い、年約1万5000人が応募されています。

前出のパーソルキャリアコンサルティングによる再就職支援では、1年以内に決まる確率が93%前後。先ほどもお話ししましたが、中堅企業が大手企業のご経歴を持った方を求める事例が多いですね。この再就職支援サービス会社を使った施策は、受け入れる企業側も求職される方も費用負担はありません。施策を活用する企業が費用負担するため、非常に有効な採用手法としてシニア層の方々が活発に利用されています」

業種による偏りはあるでしょうが、人材不足・人手不足に悩む中小企業と大手企業に勤務する躍進層のシニアの方々のマッチングは成立しやすい傾向にあるようです。ただし、これは全シニア層のごく一部の成功例に過ぎません。オフィス内で勤務してきたホワイトカラーではなく、ブルーカラーのシニア層の再就職や転職には、さらに多くの課題があるはずです。

現代はDX化の促進に伴い、ブルーカラーにもITツールの活用が求められる時代になっています。例えば、これまでパソコンに触れる機会のなかったシニア層であっても、業務の中でスマホの使用を求められるケースも出てくることでしょう。 「働く意欲は十分にあるけれど、スマホの操作には自信がない」という方のデジタルデバイド解消に向けて、これまでシニア層向けのスマホ講座やカリキュラムの開発を行ってきた女子部JAPANがお役に立てることがあるのではないか、そう考えています。

(株式会社都恋堂 小林 保╱「高齢社会エキスパート╱総合」認定)